今回の個展のテーマは2003年のときと同じ「時系列」。時のうつろい、生き物の 自然の成りゆくさま。月の満ち欠け、潮の満ち干、植物の四季。遠くはなれて眺めてみれば、そこにはいろいろな色が絡み合い、不思議なリズムを持って流れている。
予てより、私はあまり物をきちんと見ていないように思う。ぼーっとしているのかもしれないし、視力があまり良くないせいもあるかもしれない。見ていたとしてもそれは存在そのものというよりは周りに反射する光とか、漂っている色だとかで、見ることよりも、寧ろ匂いとか触覚とか聴覚で感じたものの方に興味が湧く。記憶もそうだ。重なった記憶の 層の深いところから取り出してみると、時を経て芯のようになって残ったものは、抽象的ではあるけれど余分な物が削ぎ落とされ、その存在の影は薄い。そんな薄くて儚くて、よもやこの目を通しては見ることの出来ないもの、以前に実際に歩き 感じたこと、経験したもの。私のなかで絡み合い、そうして刻み込まれた景色を、雁皮や楮やパルプの繊維を絡ませて漉いた、四隅の綻んだ、薄く温かみのある和紙の平面の中に閉じ込めてみたいと思った。版という媒体を使ってその触感や成りゆき任せな偶然性を楽しみながら。
2008.7.13