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CONTEXT

版を使った表現

版を使った表現、所謂「版画」ですが、私の場合は従来の複数性を持った版画というより、版を1つの素材としてとらえています。 つまり 量産することは基本的に考えておらず,この前提を優先するならミクストメディアと呼んだほうが近いかもしれません。 1つの色ごとに1つの版を作り,出来上がったこれらの版をひとつひとつ一枚の紙に刷り重ねていきます。 ダイレクトに画面と向き合う油絵のような絵画と,版という媒体を通して間接的に立ち上がる版画。 どちらも絵画という平面で、画面との対話の中で作り上げられるものですが,意思的な表現か或いは版特有の偶然性の不思議を引き出す,というようにそれぞれの技法の特性と表現は密接にかかわってくるものです。
―成る―という言葉があります。例えば陶器は、出来上がった形にある思いを込めて釉薬をかけ、後を火に委ね自然の力が作用して1つの造形が出来上がります。 このように自然に委ねるという姿勢は版を用いるという方法でもかなえることは可能です。 それはまた、私は何を表現したいかという作品のテ−マにも繋がってきます。
自らのなかに刻み込まれた風景が時間を経ると,曖昧ではあるけれどなにか芯のようなものとなって残ってきます。 版もまた、腐蝕という過程を経て形作られます。意志の外で自然が作用する時間があります。こうして、版という媒体を用いて現在の場と融合させて具現化すべく、版を重ね、色を重ね、時を重ね、自らの意思の及ばぬような透明な時空を探っていきたいと考えています。

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